生命融合科学教育部長 黒澤 信幸
生命融合科学教育部は、2006年4月に医・薬・理・工の4つの学系が生命科学を軸に結集して教育にあたる日本初のユニークな組織として、分子・細胞・回路・個体レベルの生命現象から、次世代創薬、高度医療開発までを抱合した学際融合的な生命科学の研究と教育を行うことを目標に設置されました。生体情報システム専攻、先端ナノ・バイオ科学専攻、認知・情動脳科学専攻からなる3専攻で構成されている本教育部は、今年で19周年を迎え、これまでに輩出された165名の博士課程修了者は、日本のみならず世界中の大学や民間企業において、研究を向上させイノベーションを育むための触媒として活躍しています。
この20年間で私たちは、複数の学問分野において著しい進歩を目の当たりにしてきました。同時に、日本の少子化は人口構造や産業構造に大きな影響を引き起こしています。その結果、本教育部が設立された当初とは大きく異なる社会状況が生み出され、この変化する現実に大学は正面から取り組む必要が生じています。富山大学ではこの流れを汲んで、令和6年の博士後期課程の改組により、総合医薬学研究科、理工学研究科及び医薬理工学環が設置されました。これに伴い、生命融合科学教育部における新入生の受け入れが停止することになり、本教育部は、すべての在校生が修了した時点で組織的に解散することになります。一方、本教育部の融合教育を行う取り組みは、新たに新設された博士前期、並びに博士後期課程の医薬理工学環に受け継がれており、これは学際融合教育に対する本教育部のコミットメントが評価されたものと自負しております。
昨今、大学や研究機関でも異分野融合を促進するための組織が続々とつくられていますが、生命融合科学教育部での経験を踏まえると、真の融合には単なる分野横断的カリキュラムの提供だけではなく、学系を超えた教員間の共同研究・プロジェクト研究等を通した交流を呼び水とした、教員間、学生間の流動的な交流が融合の土台になると思われます。今後も、FD研修会、教員紹介、シンポジウム、異分野基礎実験体験実習などを通して本教育部が蓄積した教育・研究・社会貢献の各遺産を、新組織へ継承・発展させるために取り組む所存です。