認知・情動脳科学専攻 Major of Cognitive and Emotional Neuroscience
Investigation on physical basis of “mind”
高雄 啓三 Keizo Takao
- TEL : 076-434-7170
- URL : http://www.lsrc.u-toyama.ac.jp/lsrc/larc/larc_labo.htm
- Keywords : Genetically engineered mice, Behavior test battery, Psychiatry disorders, Genome editing, Reproductive technology
研究の背景と目的 Background and Purpose of Study
「こころ」は脳が司る機能のひとつとされている。この機能のために脳はさまざまな情報を受容して処理するが、その最終出力は個体の行動という形で発現する。現代の科学をもってしても「こころ」を直接的に研究することは困難であるが、その物理的な基盤である脳と最終的な発現である行動を対象とすることで科学的に研究を行うことができる。当研究分野では、行動遺伝学、行動薬理学、光遺伝学、生理学等の手法を用いて記憶、学習、情動などの「こころ」の物質的基盤の解明および精神・神経疾患の病態解明と治療法の開発を目指す。また、これらの研究に用いる新しい遺伝子改変マウスの作製や、生殖・発生工学技術の開発も行っている。
"Mind" is one of many brain functions. The brain receives and processes various types of information necessary for the emergence of "mind". An individual's behavior is the final output of brain function. Even with today’s technology, it is difficult to directly study "mind", but analyses of brain and behavior contribute to elucidate the principles of "mind". Our laboratory aims to resolve the cellular and molecular mechanisms of "mind", including memory, learning, and emotion, using behavioral genetics, optogenetics, pharmacologic and physiologic techniques. With these techniques, we also aim to resolve the pathophysiology of neuropsychiatric disorders and to develop treatments for these diseases. In addition, we are working to develop novel genetically engineered mice, and new reproductive technologies.
本研究の領域横断性
我々の研究室では、主にマウスをモデル動物として、ゲノム編集技術、ウィルスによる遺伝子改変、光遺伝学、薬理遺伝学、そして行動解析などを活用して「こころ」の動作原理の解明を行っている。マウスはヒトと同じ哺乳類であり、個体レベルで認知・情動などの高次脳機能を解析することができ、さらに遺伝子改変も容易という特長がある。マウスで発現している遺伝子の99%はヒトでホモログがあり、マウスで遺伝子の変異や多型を精査することは、その遺伝子がヒトの脳活動や高次認知機能にどのような役割を果たしているかの理解に繋がる。これらの理由から、現在の認知情動脳科学の研究分野において、マウスは実験動物として最も広く使われている。また、遺伝子だけではなく各種のストレスや薬物投与、食餌、運動療法などさまざまな実験操作が行動に与える影響についても同様の手法で解析することができるため、領域横断的な共同研究が可能である。マウスで何らかの行動表現型を見出すことができれば、その行動と関係する可能性のある脳部位や回路、分子などを推測することができ、それに基づいて分子・細胞・回路・個体レベルなど、さまざまな階層の研究に繋がる。
研究内容
1) 記憶・学習、情動、認知などの精神機能の生理学的基盤の解明
様々な遺伝子改変マウスや光遺伝学・薬理遺伝学的に細胞機能を操作したマウスについて感覚・知覚、運動機能、情動行動、記憶学習などの行動表現型解析を行うことでどのような遺伝子、タンパク質、神経回路などが如何にして各種行動の発現に関与しているかを明らかにすることができる。
2) 行動解析による精神・神経疾患モデルマウスの探索と評価
様々な遺伝子改変マウスをはじめ、各種のストレスモデルマウスの中には精神疾患様の行動表現型を示すものがいる。共同研究なども含め、多くのマウス系統を行動解析することで精神・神経疾患様の表現型を示すモデルマウスの探索・評価を行っている。
3) モデルマウスを用いた精神・神経疾患の病態解明と治療法の開発
統合失調症モデルマウスやアルツハイマー病モデルマウスなど精神・神経疾患のモデルマウスについて行動レベルでの表現型をもたらす脳内の中間表現型探索を行い、病態の解明を目指している。また、各種疾患モデルマウスの行動表現型を活用し、投薬や遺伝子操作による治療法についての行動学的スクリーニングを行うことで、新規治療法の開発を行っている。
4) 東洋の伝統的な精神訓練法の神経基盤の解明
ヨーガに代表される東洋の伝統的な瞑想法は「こころ」の訓練法であり、自律的に自分の意識を活性化させる技術である。伝統的・経験的に伝わるこの訓練法に科学的な裏付けは少なく、その神経生物学的メカニズムについての知見は乏しい。この訓練法の中心には深い呼吸、すなわち低速度の呼吸法がある。この呼吸法の動物モデルを開発し、その生物学的意義を明らかにする。
5) 生殖発生工学による新たな遺伝子改変マウスの作製
遺伝子の機能を解析する上で、遺伝子改変マウスの作製は必要不可欠な手段となっている。ゲノム編集で注目されているCRISPR/Cas9 システムはもともと細菌などの原核生物でウィルスなどに対する獲得免疫として発見されたものだが、その外来遺伝子を選択的に切断する機能を利用すると哺乳類の細胞中で遺伝子を書き換えることができる。このゲノム編集技術と生殖発生工学とを組み合せ、マウス受精卵中の遺伝子を直接編集することで効率よく新しい遺伝子改変マウスを作製している。
6) 新しい生殖発生工学技術の開発
受精卵には着床し発生にいたるものと、着床しなかったり途中で発生が止まったりして産まれてこないものがある。卵子の品質は母胎の加齢とともに劣化し、高齢女性の不妊の原因の一つとされている。晩婚化の進む現代社会において卵子老化の予防法開発は重要な課題であるが、卵子の品質を決める因子は不明であり対策が難しい。マウスの受精卵をモデルとして卵子の品質に関わる因子の探索を行うとともに、その成果を応用した新しい生殖発生工学技術の開発を目指している。
参考文献
- Deficiency of schnurri-2, an MHC enhancer binding protein, induces mild chronic inflammation in the brain and confers molecular, neuronal, and behavioral phenotypes related to schizophrenia. Takao K, Kobayashi K, Hagihara H, Ohira K, Shoji H, Hattori S, Koshimizu H, Umemori J, Toyama K, Nakamura HK, Kuroiwa M, Maeda J, Atsuzawa K, Esaki K, Yamaguchi S, Furuya S, Takagi T, Walton NM, Hayashi N, Suzuki H, Higuchi M, Usuda N, Suhara T, Nishi A, Matsumoto M, Ishii S, Miyakawa T. Neuropsychopharmacology. 38(8):1409-25. 2013
- Genomic responses in mouse models greatly mimic human inflammatory diseases. Takao K, and Miyakawa T. Proc Natl Acad Sci USA. 2015 Jan 27;112(4):1167-72.
- Cohort Removal Induces Changes in Body Temperature, Pain Sensitivity, and Anxiety-Like Behavior. Takao K, Shoji H, Hattori S, Miyakawa T. Front Behav Neurosci. 10:99. 2016.
- Comprehensive behavioral analysis of calcium/calmodulin-dependent protein kinase IV knockout mice. Takao K, Tanda K, Nakamura K, Kasahara J, Nakao K, Katsuki M, Nakanishi K, Yamasaki N, Toyama K, Adachi M, Umeda M, Araki T, Fukunaga K, Kondo H, Sakagami H, Miyakawa T. PLoS One. 2010 Mar 1;5(3):e9460.
- 脳科学辞典「行動テストバッテリー」高雄啓三、小清水久嗣、宮川剛, 2013/8/14, DOI:10.14931/bsd.4058, https://bsd.neuroinf.jp/wiki/行動テストバッテリー